今日はルヴァンカップ決勝。
対戦カードは「柏レイソル vs サンフレッチェ広島」。
どちらも完成度の高いチームですが、フィジカルデータに目を向けると――この2チームは真逆の特徴を持っています。
実は私、Jリーグクラブでトレーナーとして日々選手のコンディションを見ています。
その立場から今回は、
両者リーグ戦でのフィジカル的なスタッツをもとに、決勝の展望を少しマニアックに掘り下げてみたいと思います。
注目したのは「走行距離」と「スプリント回数」。
柏レイソルは1試合平均走行距離119kmでJ1トップ。
一方のサンフレッチェ広島は111kmでリーグ最下位。
数字だけ見ればまさに
「走る柏」vs「走らない広島」。
ただ、ここで言う“走らない”は決してネガティブではありません。
柏は相手ゴール前でスプリントを多用し、決定的な局面で爆発力を出すチーム。
対して広島は自陣ゴール前でのスプリントが少なく、ポジショニングと連動性で守備を完結させるチームです。
つまり、「どこで走るか」「どこで走らないか」の違い。
エネルギーの使い方が対照的なこの2チームの激突は、
“走力の質”という観点からも非常に興味深い一戦になりそうです。
① 走行距離に現れる戦術の違い
走行距離は、チームの戦い方を如実に映す「戦術の鏡」です。
単純に「よく走る=良いチーム」というわけではありません。
どのような目的で、どこにエネルギーを使っているかが重要になります。
柏レイソル:走って“仕掛ける”チーム
柏レイソルの平均走行距離は119km(J1リーグ1位)。
これは「チーム全体で前への推進力を保ち続けている」ことを示しています。
特に特徴的なのは、相手ゴール前(At)でのスプリント回数60回という数字。
この数字はリーグの中でも圧倒的。
つまり、走る量が多いだけでなく、
得点に直結する“目的のある走り”が多いのです。
攻撃時には、FW細谷真大選手を中心に縦へのスプリントが多く、
ボール保持から一気にゴール前へ迫る“トランジション型”の強みが出ています。
まさに「走力で押し切るチーム」と言えるでしょう。
サンフレッチェ広島:走らず“支配する”チーム
一方で、広島の平均走行距離は111km(J1最下位)。
しかしこれは、「走らない=動かない」ではなく「動かさない」チームスタイルの結果です。
広島は、ポゼッション率の高さと組織的な位置取りで試合をコントロールします。
走行距離が短くても、ボールと味方の位置関係で相手を走らせることができる。
いわば“省エネで効率的なチーム”。
さらに、自陣ゴール前(Dt)でのスプリントが少ない(リーグ最下位)ことも特徴的。
裏を返せば、自陣でスプリントを強いられる状況を作らせない戦術が徹底しているということです。
戦術がつくる「走り方」の違い
柏は「攻撃へのスプリントが多い=攻撃的な走り」。
広島は「守備で走らない=配置で守る走り」。
つまり、同じ“走行距離”でも、
「走らされるチーム」か「走らせるチーム」かで意味がまったく変わるのです。
② スプリントの位置に見るフィジカル戦略
サッカーにおける“スプリント”は、ただ速く走ることではありません。
どのタイミングで、どの場所に向かって、
どんな目的で走るのか。
この「文脈」が、チームの個性を決定づけます。
柏レイソル:ゴール前で仕掛ける“アタッキング・スプリント”
柏の特徴は明確です。
1試合平均相手ゴール前(At)でのスプリント回数60回(J1リーグ1位)。
この数字は、チーム全体がゴール前で爆発的な動きを繰り返していることを意味します。
特に、細谷真大選手や怪我から復帰した瀬川祐輔選手が見せる“裏抜け”の動きは象徴的。
柏のスプリントは、「ボールを受けるため」ではなく「相手を動かすため」に行われています。
結果として、守備陣を引きずり出し、ゴール前のスペースを創出する。
まさに“スプリントでチャンスを作るチーム”です。
こうしたアタッキング・スプリントを高強度で繰り返せる背景には、
前線の選手のフィジカルコンディションの高さと、
トレーニングでの反復的な短距離ダッシュがあると考えられます。
Jリーグの中でも「スプリント耐性」の強さは群を抜いています。
サンフレッチェ広島:スプリントを“制御する”守備
一方、広島の特徴は自陣ゴール前(Dt)でのスプリント回数30回(リーグ最下位)。
つまり「相手の攻撃に対して走らされていない」チームです。
広島の守備は、3バック+ボランチを中心にコンパクトなブロックを保つことで、
“走らずに守る”ことを可能にしています。
ポジショニングの質が高いため、無理な戻り走りやカバーリングスプリントが少ない。
これはフィジカルを温存し、攻撃時に爆発させる戦略です。
また、広島のスプリントは「量」ではなく「タイミング」。
相手がパスミスした瞬間やボールが浮いた局面で、
一気にプレスをかける瞬発型のスプリントが特徴的です。
そのため、総スプリント回数は少なくても“効果的な走り”が多いのが広島流。
フィジカルの「使いどころ」が勝敗を分ける
柏は「どれだけ前で走るか」、
広島は「どれだけ走らずに守れるか」。
両チームの戦略はまさにエネルギーの分配哲学の違いです。
90分間を通して「走る場所」「走らない場所」をどこまで明確にできるか。
それが、この決勝でのパフォーマンスの差を生むでしょう。
③ 決勝の見どころ:データが示す勝負の分岐点
この試合のテーマは、まさに「走り方の哲学対決」。
走る柏 vs 走らない広島。
数字だけを見れば柏が圧倒的に“動いている”ように見えますが、
実際の勝敗を左右するのは「どこで走るか」「いつ走るか」です。
🔹柏の勝利条件:走力を“ゴール前の質”に変えられるか
柏の強みは、前線でのスプリント。
特に相手ゴール前(At)でのスプリント60回/試合というデータは、
「どれだけゴールに直結する走りを増やせるか」が結果に直結することを示しています。
この試合でも、細谷真大選手や瀬川祐輔選手が
相手CBの背後へ飛び出す“縦のスプリント”をどれだけ繰り返せるかが鍵。
広島のコンパクトな守備に対して、走力でラインを破壊できるかがポイントです。
つまり柏に求められるのは、
「走行距離」ではなく「走る目的」。
疲労が溜まってくる後半にこそ、どれだけ走りの質を維持できるか。
🔹広島の勝利条件:走らずに“間合い”をコントロールできるか
一方の広島は、走らずして強い。
守備でスプリントを強いられない=ポジショニングが整理されている証拠。
彼らが意識しているのは「相手を走らせること」。
柏のスプリントが前のめりになった瞬間に、
空いたスペースを突くカウンターが決まれば、それはまさに“静のフィジカル勝ち”。
体力を温存しながら、走る相手を逆に利用する試合運びができるかどうか。
この“省エネ・コントロール型”の強さが発揮されれば、走行距離の差など意味を持たなくなります。
🔹勝敗を分けるのは「終盤20分の走り方」
決勝というプレッシャーの中で、
最後まで走れるチームが勝つ――そう言いたくなる展開ですが、
本質的には「最後まで“走らされない”チームが勝つ」可能性もあります。
柏がスプリントで押し切るか、
広島が省エネ戦略でいなすか。
フィジカル的なスタッツが、戦術と直結している一戦です。
🔸トレーナーの視点から
トレーナーの立場で言えば、
この両チームの違いはコンディション設計の哲学の違いでもあります。
「全力で走る回数を増やす」柏。
「全力で走る必要を減らす」広島。
どちらも正解。
ただし決勝では、“想定外の消耗”をどちらがマネジメントできるか。
その差が、トロフィーを左右する一因になると見ています。
✅ まとめ
- 柏:前線のスプリントが決定打になるか
- 広島:省エネで相手を走らせられるか
- 終盤20分の走り方が勝負の分かれ目
走る柏か、走らない広島か。
数字が示す「フィジカルの哲学」が、
今夜のピッチでぶつかり合う。



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