【速筋と遅筋とは】プロトレーナーが解説

スポーツ医科学
Skeletal muscle fiber types with slow twitch and fast twitch infographics. Red and white muscular tissue structure for aerobic and anaerobic exercises. Marathon runner vs sprinter. Vector illustration

「同じ練習をしているのに、なぜあの子は走り続けられて、うちの子はスプリントが得意なんだろう?」

ジュニアスポーツの現場で、
多くの選手・保護者が一度は感じる疑問です。

努力の差なのか、才能の差なのか。
そう悩んでしまうのも無理はありません。

しかし、近年の研究では、こうした違いの背景に
「速筋」と「遅筋」という筋肉の性質
そして遺伝の影響が関係していることがわかってきています。

本記事では、
速筋と遅筋の違いを基礎から整理し、
「筋肉の割合は遺伝で決まるのか?」
「トレーニングで変えられること・変えにくいこと」
「話題のスポーツ遺伝子検査は、子どもにとって本当に必要なのか?」

といった疑問を、科学的根拠をもとに、選手・保護者向けにわかりやすく解説します。

子どもの可能性を狭めないために、
まずは「体の仕組み」を正しく知るところから始めてみましょう。

第1章|速筋と遅筋の違い・遺伝性を科学的に解説

「なぜ同じ練習をしても伸び方が違うのか?」

「同じチームで、同じ練習をしているのに
・あの子は走り続けられる
・この子は一瞬のスピードがすごい

どうしてこんな差が出るんだろう?」

多くの保護者の方が、一度は感じたことがある疑問だと思います。

その答えのカギになるのが、速筋と遅筋 という筋肉の性質です。


そもそも筋肉には「種類」がある

人の筋肉は、実はすべて同じではありません。

骨格筋(体を動かす筋肉)は、大きく分けて次の2種類の筋線維で構成されています。

  • 遅筋(ちきん)
  • 速筋(そっきん)

この2つは、
「得意な動き」
「疲れやすさ」

がまったく違います。


遅筋とは?|走り続けるための筋肉

遅筋 は、その名の通り
動きはゆっくりだけど、長く使える筋肉です。

特徴をまとめると、

  • 長時間動き続けるのが得意
  • 疲れにくい
  • 酸素を使ってエネルギーを作る
  • 姿勢を保つ、歩く、走り続ける動きに関係

サッカーで言えば、

  • 90分間ピッチを走り回る
  • 守備で戻り続ける
  • 試合終盤でも運動量が落ちにくい

こういった 「スタミナ系の能力」 は、遅筋が大きく関わっています。


速筋とは?|一瞬で力を出す筋肉

一方で 速筋 は、

短い時間で、大きな力を出す筋肉です。

特徴は、

  • 動きが速い
  • 爆発的な力を出せる
  • その代わり疲れやすい
  • スプリントやジャンプで活躍

サッカーで言えば、

  • 一気に相手を抜くダッシュ
  • 競り合いで体をぶつける
  • ゴール前での一瞬の加速

こういった 「瞬発力・スピード」 に関係します。


速筋と遅筋の違いを一言で言うと

ここまでを、とてもシンプルに言うと、

  • 遅筋=走り続ける力
  • 速筋=一瞬で爆発する力

どちらが「良い」「悪い」ではありません。
役割が違うだけです。

そして、ほとんどのスポーツでは
この2つを「両方使っている」
という点が重要です。


速筋と遅筋の「割合」はみんな同じではない

ここからが、大切なポイントです。

人の筋肉は、

  • 速筋50%・遅筋50%
    と均等にできているわけではありません。

研究では、筋線維の割合には個人差があり、遺伝の影響が大きいことがわかっています。

つまり、

  • 生まれつきスタミナ型の子
  • 生まれつきスピード型の子

が存在する、ということです。

これは努力不足でも、才能の差でもなく、
体質の違いです。

また身体操作を効率よくするために
筋肉の部位によっても割合は大きく異なるようになっています。


遺伝=「将来が決まる」ではないので安心してください

ここで誤解してほしくないポイントがあります。

「遺伝」と聞くと、

  • この子は向いてない
  • 才能がない

と不安になる方も多いですが、
それは違います。

遺伝が影響するのは、

  • 伸びやすい方向
  • 反応しやすいトレーニング

あくまで 「傾向」 です。

たとえば、

  • 速筋が多い傾向 → スピード練習で伸びやすい
  • 遅筋が多い傾向 → 走り込みで安定感が出やすい

という違いが出やすい、というだけです。


同じ練習で差が出る理由がここにある

ここまでを踏まえると、こんな場面が見えてきます。

  • 走り込みでぐんぐん伸びる子
  • 走り込みが苦手で、スプリントは得意な子

どちらも「サボっている」のではありません。
使っている筋肉の性質が違うだけです。

この視点を持つだけで、

  • 子どもを見る目
  • 声かけ
  • 練習の考え方

が大きく変わります。


第1章のまとめ

  • 筋肉には「速筋」と「遅筋」がある
  • 速筋はスピード、遅筋はスタミナ担当
  • 割合には個人差があり、遺伝の影響が大きい
  • 遺伝は可能性の話で、将来を決めるものではない

次の章では、
「じゃあトレーニングでどこまで変えられるのか?」
「子どものスポーツではどう考えるべきか?」

を、さらに具体的に解説していきます。

第2章|速筋・遅筋はトレーニングでどこまで変えられる?

「努力すれば何でも変わる」は本当なのか

保護者の方から、非常によく聞かれる質問があります。

「トレーニングを頑張れば、
速筋タイプの子でもスタミナはつきますか?」

「遅筋タイプだと、スピードは伸びないんでしょうか?」

結論から言うと、
どちらも「YES」ですが、前提条件があります。


速筋と遅筋は「入れ替わる」のか?

まず、ここをハッキリさせましょう。

速筋が遅筋に完全に入れ替わる
遅筋が速筋に完全に変わる

ということは、基本的には起こりにくいとされています。

筋肉の研究では、
筋線維の「大枠の比率」は遺伝的な影響が大きく、
トレーニングだけで真逆の体質になることは難しい
というのが現在の共通理解です。


でも「変わらない=伸びない」ではない

ここが一番大事なポイントです。

筋線維には、実は
中間タイプ が存在します。

  • 速筋の中にも
    • 瞬発特化型
    • 持久寄りの速筋

があり、トレーニングによって
性質が変化する
ことが分かっています。

つまり、

  • 遅筋タイプの子が
    → スプリント能力を高める
  • 速筋タイプの子が
    → 持久力を伸ばす

ことは、十分に可能です。

子どものトレーニングで起こりやすい誤解

ここで、現場で本当によくある誤解を整理します。

誤解①:走り込みをすれば誰でもスタミナ型になる

→ ❌

走り込みで

  • 心肺機能
  • 動作効率

は向上しますが、
体質そのものが完全に変わるわけではありません。

誤解②:スプリント練習はスピード型の子だけのもの

→ ❌

遅筋タイプの子にとっても、
スプリント練習は

  • 神経系の発達
  • 動きのキレ

を高める重要な刺激になります。


子どもの年代では「比率」より「経験」が重要

特に小学生〜中学生年代では、

  • 速筋が多い
  • 遅筋が多い

を 厳密に分けて考えすぎる必要はありません。

この年代で最も大切なのは、

  • 走る
  • 跳ぶ
  • 止まる
  • 切り返す

といった 多様な動きの経験 です。

結果として、

  • 速筋も
  • 遅筋も

どちらも育てる土台 が作られます。

「向いている・向いていない」を早く決めすぎない

筋線維の話を知ると、

  • この子はスピード型
  • この子はスタミナ型

と決めたくなりますが、
早すぎる決めつけは逆効果 です。

成長期は、

  • 神経

すべてが大きく変化します。

「今は遅い」
「今は走れない」
は、将来を決める材料にはなりません。


第2章のまとめ

  • 筋線維の比率そのものは大きく変えにくい
  • ただし、機能や能力はトレーニングで伸ばせる
  • 子ども年代では「多様な動き」が最優先
  • 体質を理由に可能性を狭めないことが大切

第3章|スポーツ遺伝子検査で何がわかる?

「才能を決める検査」ではありません

最近、
「スポーツ遺伝子検査」
という言葉を聞く機会が増えてきました。

  • うちの子はスピード型?
  • 持久力型?
  • 向いているスポーツは?

保護者としては、気になりますよね。

ただ、最初に一番大事なことをお伝えします。

スポーツ遺伝子検査は、将来を決めるものではありません。


スポーツ遺伝子検査とは何を調べるもの?

スポーツ遺伝子検査では、主に
筋肉の使われ方や回復に関係する遺伝子
を調べます。

代表的なのが、

  • ACTN3(アクチニン3)遺伝子

この遺伝子は、
速筋の収縮に関与するタンパク質 を作るかどうかに関係しています。


ACTN3遺伝子でわかること(超かみ砕き)

専門的な話を省いて、保護者向けに言うと、

  • 速筋が働きやすい体質の傾向があるか
  • 持久系が得意になりやすい傾向があるか

を 「確率的に」 知るためのものです。

ここで重要なのは、

✔ 得意になりやすい「傾向」
✔ 絶対的な「能力」ではない

という点です。

なぜ「当たる・当たらない」の議論になるのか

スポーツ遺伝子検査について、

  • 「当たった」
  • 「全然違った」

という声が出る理由はシンプルです。

👉 スポーツ能力は、遺伝子だけで決まらないから。

運動能力は、

  • 遺伝
  • トレーニング
  • 環境
  • 指導
  • 本人の意欲

が重なって作られます。

遺伝子は、その中の ほんの一部 にすぎません。


保護者がやりがちなNGな受け取り方

ここはとても大切なので、あえて書きます。

NG①「向いてないと出たから、やめさせよう」

→ ❌

検査結果は
「向いていない」ではなく
「別の能力が伸びやすいかもしれない」
というヒントです。

NG②「才能があるって出たから安心」

→ ❌

遺伝的に有利でも、

  • 練習しなければ伸びない
  • ケガや環境で変わる

のがスポーツです。

おすすめのスポーツ遺伝子検査

おすすめの遺伝子検査

スポーツ遺伝子検査の「正しい使い方」

では、どう使うのが正解なのか。

おすすめはこの考え方です。

  • 子どもの特徴を知るための参考資料
  • 声かけや練習の方向性を考える材料
  • 無理な期待や否定を避けるためのヒント

「この子はこういう伸び方をするかもしれない」
と、見守り方を柔らかくする道具として使う。

これが、保護者にとって一番健全な使い方です。


第3章のまとめ

  • スポーツ遺伝子検査は「才能判定」ではない
  • 速筋・遅筋の傾向を知るためのヒント
  • 結果は確率であり、未来を決めるものではない
  • 子どもの可能性を狭めない使い方が重要

第4章|速筋・遅筋を知ったうえで

保護者ができるサポートとは?

ここまでで、

  • 速筋と遅筋の違い
  • 遺伝の影響
  • トレーニングで変えられること・変えにくいこと
  • スポーツ遺伝子検査の正しい捉え方

を整理してきました。

では最後に、
「この知識を、保護者としてどう活かせばいいのか?」
を考えていきましょう。


いちばん大切なのは「比べすぎない」こと

保護者が無意識にやってしまいがちなのが、

  • チームメイトとの比較
  • 兄弟・同年代との比較
  • 「あの子はできているのに」という視点

でも、ここまで読んでいただいた方ならもう分かるはずです。

👉 伸び方は、子どもによって違う。

これは性格の違いではなく、
身体の設計図が違うというだけの話です。

「今できない」は「将来できない」ではない

特に成長期の子どもは、

  • 神経の発達
  • 骨の成長
  • 筋力の伸び

がバラバラのタイミングで起こります。

そのため、

  • 今は遅い
  • 今は走れない
  • 今は体が弱い

という状態が、
数年後には逆転することも珍しくありません。

実際、ジュニア期に目立たなかった選手が
高校年代で一気に伸びるケースは山ほどあります。


速筋・遅筋の知識を「声かけ」に活かす

知識は、使ってこそ意味があります。

NGになりやすい声かけ

  • 「もっと走れ」
  • 「なんでできないの?」
  • 「努力が足りない」

OKな声かけ

  • 「今はこの練習が合ってる時期かもね」
  • 「得意な動きはすごく良くなってるよ」
  • 「今は土台を作ってる段階だね」

速筋・遅筋の話を知っているだけで、
言葉のトゲが減ります。

これは、子どものメンタルにとって本当に大きな差です。

スポーツ遺伝子検査を使うなら、このタイミング

もし、スポーツ遺伝子検査に興味がある場合は、

  • 結果で進路を決めるため
  • 才能を断定するため

ではなく、

👉 「子どもの特徴を理解する補助資料」
として使うのがベストです。

  • 練習の方向性を考える
  • 無理な期待をかけない
  • 得意・不得意を冷静に見る

そのための“ヒント集”と考えると、非常に有効です。


迷ったときは「基礎に戻る」

情報が増えるほど、迷うことも増えます。

そんなときは、

  • 速筋と遅筋の違い
  • それぞれの役割
  • 個人差があるという事実

この 基本 に立ち返ってください。

基礎が分かっていれば、

  • 焦りすぎない
  • 比べすぎない
  • 信じて待てる

ようになります。

第4章のまとめ

  • 速筋・遅筋の違いは「優劣」ではなく「役割」
  • 遺伝は可能性の話で、未来を決めるものではない
  • 子どもの成長スピードには個人差がある
  • 保護者の理解と声かけが、成長環境を左右する

知識は、子どもを縛るためのものではなく、
信じて見守るための材料です。


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