はじめに
スポーツ選手にとって、ケガはつきものです。
その中でも肩の亜脱臼は、特に上半身を使うスポーツでよく見られるケガの一つです。
本記事では、肩の亜脱臼についての基礎知識から、症状、放置した場合のリスク、脱臼との違い、
そして全治にかかる時間などについて詳しく解説します。
スポーツ選手の皆さんが知っておくべき情報を網羅していますので、ぜひ参考にしてください。
1. 亜脱臼とは?脱臼との違いも解説
亜脱臼とは
亜脱臼は、関節が正常な位置からずれたものの完全には外れていない状態を指します。
通常、関節は骨と骨がかみ合うことで成り立っていますが、亜脱臼の場合はこの噛み合わせが一部ずれているだけで完全に外れてはいません。
特に肩関節の場合、上腕骨が肩甲骨の関節窩(か)から部分的に外れかかっている状態が典型的です。
肩関節は人体の中でも最も可動域の広い関節の一つですが、その分、構造上不安定になりやすい特徴を持っています。
スポーツ選手は投げる動作や腕を激しく振る動作を繰り返すことが多いため、肩の亜脱臼が起こりやすい状況にあります。
亜脱臼は、関節を完全に外してしまう「脱臼」と比較して、痛みや症状が軽度である場合が多いですが、放置してしまうと悪化するリスクが高まります。
初期の段階で正しく対応することが、後々のスポーツパフォーマンスに大きく影響します。
脱臼と亜脱臼の違い
脱臼と亜脱臼の違いは、関節のずれ方の程度にあります。
脱臼とは、関節が完全に外れてしまい、骨が正常な位置に戻らなくなる状態を指します。
脱臼の場合、関節が異常な方向に動くため、通常では考えられないような方向に腕が曲がってしまったり、肩が変形して見えることがあります。
これに伴い、強い痛みと腫れ、そして場合によっては痺れを伴うことがあります。
一方、亜脱臼では関節の一部がまだ噛み合っており、骨が完全には外れていません。
これにより、脱臼に比べると痛みは軽いものの不安定感や違和感が残るのが特徴です。
特に肩を動かしたときに「外れそうな感じ」や「カクッとした動き」を感じることが多く、これがスポーツ選手にとってはパフォーマンスの低下につながる大きな要因となります。
2. 症状とは?
典型的な症状
肩の亜脱臼が起こると、肩関節周囲に特有の症状が現れます。
最も一般的なのは、不安定感です。
肩がしっかりと支えられていないように感じたり、特定の動きをした際に「肩が抜ける」ような感覚が生じます。
これにより、日常生活の動作だけでなく、スポーツパフォーマンスにも大きな影響を与えることがあります。
痛みは個人差があり、軽度の違和感から、動かしたときに鋭い痛みを感じる場合もあります。
特に腕を上げたり、後方に引いたりしたときに痛みが強く出ることが多いです。
また、肩の周囲に軽度の腫れや炎症を伴うこともあり、触ると温かく感じる(熱感)ことがあります。
これらの症状は、初期段階であれば休息やアイシングで軽減することができますが、痛みが続いたり、頻繁に肩が外れそうになる感覚がある場合は、早急に医療機関を受診することが必要です。
放置してしまうと、症状が進行し、さらに重篤な状態に陥るリスクが高まります。
スポーツパフォーマンスへの影響
肩の亜脱臼はアスリートにとって大きな問題となり得ます。
例えば、野球のピッチャーやテニス選手、水泳選手など肩を頻繁に使用するスポーツでは、肩の安定性が非常に重要です。
亜脱臼が起こると、肩の動きに制限がかかり、パフォーマンスの低下を招くことになります。
また、肩をかばう動作が無意識に増えるため、投球フォームが崩れたり、スイング動作が変わることもあります。
これにより、他の部位(例えば肘や背中)への負担が増加し、さらなるケガを引き起こす可能性があります。
選手にとって、パフォーマンスの維持とケガのリスク管理は重要な要素であり、肩の亜脱臼を軽視することは避けなければなりません。
3. 放置した場合のデメリット
リスクの増加
肩の亜脱臼を放置すると、最も大きなリスクは、再発のリスクが高まることです。
関節が一度ずれると、関節を支える靭帯や筋肉が緩んでしまい、関節の安定性が低下します。
これにより、日常生活の中でちょっとした動作でも再び亜脱臼を引き起こしてしまうことがあります。
スポーツ選手にとって、亜脱臼の再発はプレーに対する恐怖感や不安感を増大させ、積極的なプレーを阻害する要因となります。
例えば、バスケットボールで激しくボールを奪う際や、ラグビーでタックルをする際など肩に負担がかかる場面では、再び亜脱臼を起こすのではないかという心理的なプレッシャーがかかることが多いです。
慢性痛や関節炎のリスク
肩の亜脱臼を繰り返すことで、肩関節周辺に慢性的な炎症が発生することがあります。
この状態が続くと、いわゆる「肩の慢性痛」となり、日常生活においても不快感が常に伴うようになります。
また、関節が正常な位置からずれたまま負荷がかかり続けると、関節軟骨がすり減り、関節炎を引き起こすリスクも高まります。
特に高齢者や筋力の低下が見られる場合には、亜脱臼の影響で肩の機能が著しく低下することがあります。
スポーツ選手であっても、年齢を重ねるにつれてリスクは増大するため、早めの対策が重要です。
リハビリ期間の長期化
初期治療を早く行うことで比較的短期間で回復が見込める亜脱臼ですが、放置した場合にはリハビリが長引くことがよくあります。
例えば、筋肉の弱化や靭帯の緩みを修正するために、リハビリトレーニングの強度や頻度を高める必要があります。
また、長期間にわたり肩関節の不安定な状態が続くと、筋肉のバランスが崩れ、姿勢やフォームに影響が出ることもあります。
4. 治療方法
初期対応と応急処置
肩の亜脱臼が起きた直後は、アイシングを15〜20分程度行い、炎症と腫れを抑えます。
氷嚢や氷を使ったタオルを用い、直接肌に当てずに冷やすのがポイントです。
また、肩を動かさないようにして固定し、痛みが強い場合は無理をせず、安静にすることが大切です。
亜脱臼の痛みが治まらない場合や、動かすときに違和感が続く場合は早めに整形外科を受診しましょう。
医療機関での診断と治療
医療機関では、X線やMRIを用いて肩関節の状態を詳細に確認します。
亜脱臼による関節や靭帯の損傷の程度を把握し、それに応じた治療方針を決定します。
亜脱臼の治療方法は、以下のようなものがあります。
- 保存療法:多くの場合、肩の亜脱臼は保存療法が取られます。
保存療法とは、手術をせずにリハビリや物理療法を用いて回復を図る方法です。
肩の安定性を高めるための筋力トレーニングやストレッチ、理学療法士によるリハビリプログラムが中心となります。 - リハビリテーション:肩周辺の筋力を強化することが亜脱臼の再発予防に繋がります。
具体的には、肩甲骨を支える筋肉や回旋筋(ローテーターカフ)の強化、また肩関節の柔軟性を高めるストレッチが推奨されます。これにより、肩関節が安定し、スポーツ時のパフォーマンスを回復させることができます。 - 手術療法:保存療法で改善が見られない場合や、亜脱臼が頻繁に再発する場合には、手術療法が検討されます。
手術では、損傷した靭帯や軟骨を修復し、肩の安定性を高めることを目指します。
手術後は、一定期間のリハビリが必要ですが、肩の機能を回復させ再び競技に戻るためには重要なステップとなります。
5. 全治期間とリハビリのポイント
全治期間の目安
肩の亜脱臼の全治期間は、個々の症状や治療の方法によって異なりますが、通常は1〜3ヶ月程度とされています。
亜脱臼が軽度であれば、早期にリハビリを開始することで、2週間から1ヶ月程度で日常生活に復帰することが可能です。
しかし、症状が重くリハビリ期間が長くなる場合や、手術が必要なケースでは3ヶ月以上かかることもあります。
特に競技スポーツに復帰する場合には、肩の完全な安定性と可動域を取り戻すためのリハビリが重要です。
焦って競技に戻ることで再度亜脱臼を起こしてしまうと、さらに長期のリハビリが必要になるため慎重に段階を踏んで復帰を目指すことが求められます。
リハビリの具体的な方法
肩の亜脱臼からのリハビリでは、以下のようなトレーニングが行われます。
- アイソメトリック運動:初期段階では、肩関節に負担をかけずに筋力を回復させるため、アイソメトリック運動(関節を動かさないで筋肉を収縮させる運動)から始めます。
これにより、肩の筋肉が少しずつ強化され、安定性が高まります。 - 関節可動域の改善:次に、肩の可動域を徐々に広げるストレッチや動的なエクササイズを行います。
これにより、関節の柔軟性を取り戻し、肩を動かした際の不安定感を解消します。 - 筋力強化トレーニング:肩甲骨周辺の筋肉や、ローテーターカフ(回旋筋群)を中心に筋力を強化するトレーニングを行います。
これにより、肩関節がしっかりと支えられ、スポーツ時の衝撃にも耐えられるようになります。
- 競技復帰トレーニング:最終段階では、実際の競技に近い動作を取り入れたトレーニングを行い、肩への負担に慣らしていきます。
例えば、投球動作やスイング動作を繰り返すことで、スポーツ時の動きを体に覚えさせます。
6. 予防する方法
予防のためのトレーニング
肩の亜脱臼を防ぐためには、日々のトレーニングで肩周りの筋肉をしっかりと鍛えることが重要です。
肩甲骨周囲の筋肉を強化するエクササイズとして、プッシュアップ(腕立て伏せ)やバンドを使ったローイングが効果的です。
また、肩を支えるローテーターカフを鍛えるエクササイズも積極的に取り入れましょう。
スポーツの前後には、肩のストレッチを十分に行い、筋肉をリラックスさせることも大切です。
肩甲骨のストレッチや腕を回す動作を取り入れることで、肩関節の可動域を広げ、亜脱臼のリスクを低減できます。
フォームの見直し
個人的には動作フォームの改善は必須と考えています。
例えば、投球動作で肩に無理な力がかかっている場合フォームの改善によって亜脱臼のリスクを減らすことができます。
今まで見てきた野球選手をはじめとする投球競技者のほとんどが、何かしらの動作エラーがあります。
専門のトレーナーや理学療法士にフォームをチェックしてもらうことで、より効果的な予防策を講じることができます。
休養の重要性
肩の疲労を蓄積させないためには、適度な休養も欠かせません。
練習や試合の後には、肩をしっかりと休ませ、筋肉の回復を促すことが重要です。
休息を取ることで、筋肉や靭帯がしっかりと修復され、亜脱臼のリスクを軽減することができます。
7. 亜脱臼した選手の事例と彼らのリハビリプロセス
スポーツ界では、多くのトップアスリートが肩の亜脱臼を経験しています。
特に、コンタクトスポーツや肩に大きな負担がかかる競技を行う選手に多く見られます。
亜脱臼を経験した選手たちは、適切な治療とリハビリを経て、再び競技に復帰していますが、その過程での苦労と努力は少なくありません。
事例1:野球選手の場合
野球のピッチャーや外野手は、投球動作により肩への負担が大きく、亜脱臼を起こしやすいポジションです。
あるプロ野球選手Aは、投球中に肩の亜脱臼を起こし、一時的にプレーができなくなりました。
彼のリハビリは、以下のようなプロセスで進められました。
- 初期の治療とリハビリ:肩の安静を保ち、アイシングと電気療法を組み合わせて炎症を抑えました。
その後、理学療法士による軽い可動域訓練をスタート。 - 筋力強化期:肩周りの筋力を回復させるために、チューブを用いたローイングや軽いウエイトを使用したトレーニングを実施。
特に、ローテーターカフを強化するエクササイズを重点的に行いました。 - 投球動作の復帰訓練:徐々に投球フォームに近い動作を取り入れ、肩の負担を確認しながらスローイングを再開しました。
投げるボールも様々な大きさや重さの物を用いてみました。
最終的には、実際の試合を想定した投球練習を経て、復帰を果たしました。
事例2:ラグビー選手の場合
ラグビー選手Bは、試合中のタックルで肩を強打し、亜脱臼を経験しました。
ラグビーでは激しい接触が避けられないため、肩のケガは致命的になりかねません。
彼は手術を受けることなく、リハビリを通じて復帰を目指しました。
事例3:サッカー選手の場合
サッカー選手Cは、試合中に転倒した際に肩の亜脱臼を経験しました。
サッカーは肩の負担が少ないスポーツとされますが、転倒や接触プレーでの怪我が起こることもあります。
彼のリハビリでは、バランスと肩の安定性の回復が重視されました。
- 初期の治療:亜脱臼の痛みを和らげるためにアイシングを行い、肩の動きを制限する装具を装着しました。
- バランス訓練:サッカーでは全身のバランスが重要なため、片足でのバランストレーニングや、不安定な地面でのリハビリを実施。
これにより、肩の安定性と全身の連動を取り戻しました。 - 肩の強化とストレッチ:ローテーターカフと肩甲骨周りの筋力強化を中心にトレーニングを行い、再び転倒しても肩が外れにくい状態を作りました。
また、ストレッチを通して肩の柔軟性を高め、スムーズな腕の動きを目指しました。
8.大谷翔平も盗塁で亜脱臼!?
2024年10月26日、ワールドシリーズ第2戦で大谷翔平選手が試合中に左肩を亜脱臼しました。
二盗を試みた際のスライディングで左肩を負傷し、その場でトレーナーと会話する姿が見られました。
試合後、監督が「左肩の亜脱臼」であると発表し、今後はMRI検査を行う予定とのことです。
幸い、肩の強さと可動域には問題がなく、重傷ではないと見られています
屈強で肩周りの筋力がものすごい大谷選手ですら、肩の亜脱臼をしてしまうのですから単純な肩の筋力が重要というわけではないことが分かります。
手を地面につける技術や、筋力を適切に発揮させるタイミングなど複合的な要素が亜脱臼の予防に必要になってきます。
9. まとめ:肩の亜脱臼は早期の対応と予防がカギ
肩の亜脱臼は、スポーツ選手にとって避けたいケガの一つですが、正しい知識と対応を持つことでリスクを大幅に減らすことが可能です。
軽度だからといって放置せず、適切な治療を受けることが、再発防止とパフォーマンスの維持につながります。
また、日々のトレーニングで肩の筋力を強化し、正しいフォームを意識することが予防の鍵となります。
亜脱臼が起こった場合には、速やかに医療機関を受診し、適切なリハビリを行うことで再び競技に復帰できるようになります。
肩を大切にしながら、スポーツを楽しみ続けましょう。
この内容を基に、スポーツ選手が肩の亜脱臼についてしっかりと理解し、適切な対応を取ることで、ケガを予防しながら競技生活を続けることができます。
肩のケガに対する正しい知識を持つことは、アスリートとしての大きな武器になりますので、参考にしていただければ幸いです。
コメント