夏のサッカーにひそむ“静かなリスク”
「帽子かぶらせたし、水筒も持たせたし、大丈夫だよね」
そんなふうに思って送り出した、
真夏の週末の練習。
顔が赤い。息が早い。返事が少しぼんやりしている。
これは、Jリーグの下部組織でも実際に起こったエピソードです。
原因は「ちょっと疲れただけ」ではなく、“熱中症の初期症状”でした。
私は現在、Jリーグクラブでアスレティックトレーナーとして活動しており、
選手のフィジカル管理やケガの予防・リハビリを担当しています。
とくに夏場は、毎年のように熱中症に関するトラブルや相談があり、
その対応や予防策を現場で積み重ねてきました。
この記事では、
・実際に現場で起こったエピソード
・子ども特有の熱中症リスク
・ご家庭でできる予防のコツ
をわかりやすくお伝えします。
さらに後半では、
水分補給や熱対策のためのおすすめグッズやドリンクについても別記事で詳しく紹介していきますので、そちらも参考にしていただけたら嬉しいです。
「うちの子は大丈夫」そう思えるための“準備”、今から始めませんか?
実際にあった現場でのエピソード

ある夏の日、グラウンドで起きた“異変”
夏休み中のある土曜日、
気温は朝から30℃を超え、
グラウンドには照り返しの熱気が立ち込めていました。
その日、練習に参加していたのは小学5年生のAくん。
普段は元気いっぱいで、
走ることが大好きな選手です。
しかし、練習の後半。
Aくんの様子が少しずつおかしくなってきました。
・ボールを追うスピードが落ちる
・声を出さなくなる
・休憩中はしゃがみ込んで、うつむいたまま動かない
心配になって声をかけると、「ちょっと気持ち悪い」「なんかフワフワする」と、ぼんやりした返答。
すぐに練習を中断し、日陰で水分補給と体温を下げる対応を行いました。
見逃しがちな“初期サイン”とは?
このケースは幸い、早期の対応で大事には至りませんでしたが、
実はこのような“軽いサイン”が出ている段階で
すでに熱中症の初期症状が始まっていることも多いのです。
たとえば
- 「ちょっと気持ち悪い」
- 「変な感じがする」
- 「なんかフラフラする」
- 「ボールが見えづらい」
- 「口数が減る、無口になる」
どれも明確な“病名”や“症状名”ではありません。
だからこそ、子ども本人も「言葉にできない違和感」として感じていることが多いのです。
子どもは、自分の異変を正確に伝えることができません。
だからこそ周囲の大人、特に保護者や指導者が
“変化”にいち早く気づくことが、
熱中症を未然に防ぐ鍵になります。
ジュニア世代が熱中症になりやすい理由
「子どもは大人よりも体力がある」と思っていませんか?
確かに子どもたちは驚くようなエネルギーで走り回りますが、体温調節や水分管理の面では大人よりも圧倒的に不利です。
特に炎天下のグラウンドでは、その差が命取りになることさえあります。
① 体温調節機能が未熟
子どもは大人に比べて
・発汗量が少ない
・皮膚の面積が小さく、熱を逃がしづらい
・深部体温(身体の内側)が上がりやすい
といった特徴があります。
つまり熱がこもりやすく、しかも放熱しづらい構造なのです。
② 地面からの照り返しの影響を強く受ける
子どもの身長は低く、
地表からの熱の影響をダイレクトに受けます。
アスファルトや人工芝では、地表温度が50℃を超えることも珍しくありません。
大人が感じる“暑さ”よりも、
子どもははるかに厳しい環境にさらされていることを忘れてはいけません。
③ 自分の異変に気づきにくい/伝えにくい
子どもは体調の変化を
・我慢してしまう
・うまく言葉にできない
・「頑張らないと怒られる」と思ってしまう
という傾向があります。
「変な感じがする」と言っていた時点で、
実はかなり進行していることもあるのです。
こういった理由から、
ジュニア世代は熱中症になりやすく、
発見も遅れがち。
だからこそ、大人が「子どもは熱中症になりやすい生き物である」と理解したうえで、
先回りした対策が必要です。
熱中症予防の3本柱【トレーナー視点で解説】

熱中症を防ぐには、
「とにかく水を飲ませる」だけでは不十分です。
実際の現場では、
「ちゃんと水分を摂っていたのに倒れてしまった…」というケースもあります。
ここでは、Jリーグ現場での対応経験をもとに、
3つの柱で予防策を整理してお伝えします。
① 水分だけでなく、“塩分”も摂る
子どもは汗とともにナトリウム(塩分)を大量に失います。
水だけをガブガブ飲んでしまうと、
体内の塩分濃度が下がり、かえって具合が悪くなる「低ナトリウム血症」のリスクも。
🔸トレーナーのアドバイス:

② 服装と“氷”で熱を逃がす【即効性ある冷却法】
身体に熱がこもると、それだけでパフォーマンスは大きく低下します。
特に子どもは放熱が苦手なため、
「着せるもの」と「冷やすもの」の両方からアプローチする必要があります。
🔸トレーナーのアドバイス①|冷却グッズの活用
- 練習時は吸汗速乾のウェア+通気性のいい帽子+ネッククーラー
- 首元は太い血管が通っている部位なので、冷やすと体温が効率的に下がる
- 綿100%よりポリエステル混紡の速乾素材がおすすめ
- 帽子はメッシュ素材+つばが視界を邪魔しないタイプ
🔸トレーナーのアドバイス②|氷での冷却は“即効性が高い”
氷で冷やすのは、迷わず“正解”です。
- 首・脇の下・足の付け根は、太い血管が通っており、氷で冷やすと体温が一気に下がる
- 保冷バッグにハンカチで巻いた氷嚢を常備しておくと安心
- 「冷たすぎて可哀想…」と思うかもしれませんが、熱中症は一刻を争うケースもあります
私の現場経験でも、“氷嚢で首を冷やしただけで意識がスッキリした”というケースは何度もあります。
水分補給と同じくらい、
“どこをどう冷やすか”の戦略も重要なのです。
このように「氷での冷却」は、
特に初期対応として非常に効果的であり、
家庭でも簡単に実践できる“命を守る手段”です。
③ 練習スケジュールの見直しと“休ませる勇気”
一番見落とされがちなのが「休ませる判断」。
子どもは“頑張る”が正義だと思ってしまうため、体調が悪くても言い出しません。
🔸トレーナーのアドバイス:
- 「1時間ごとに5〜10分の休憩」は義務だと考えてOK
- 練習前の尿の色チェック(レモン色より濃い=脱水のサイン)もおすすめ
- 保護者が「今日はやめとこうか」と言ってあげる環境も大切
親ができる!熱中症から子どもを守るための行動

「うちの子は、暑さには強いから大丈夫」
そう思っていませんか?
でも実際の現場では、
“普段元気な子”が最初にダウンすることも少なくありません。
子どもは、体の異変を正確に伝えるのが苦手です。
だからこそ、日々近くで見ている保護者だからこそできる“気づき”と“声かけ”が、何よりの予防になります。
① 練習後の「今日はどうだった?」の一言が命を守る
練習後、こんな声かけを習慣にしましょう:
・「今日はどのくらい走った?」
・「疲れたって感じたの、いつ頃?」
・「途中で変な感じしなかった?」
たったこれだけで、“練習中に我慢していたサイン”が後から出てくることもあります。
② 尿の色をチェックする
脱水状態のサインとして、最も簡単に確認できるのが尿の色です。
色の目安 | 状態 |
---|---|
レモン色〜薄い黄色 | 正常・水分足りている |
濃い黄色〜茶色 | 脱水の可能性あり |
「ちょっとトイレ見ておいで」でチェックする習慣をつけておくと、本人も“気づき”が生まれます。
③「今日はやめとこうか」と言える勇気
練習や試合に出ることは大切ですが、体調がおかしいときに休ませる判断はもっと大切です。
「せっかく来たのに…」という気持ちをぐっとこらえて、
「今日は無理しないで帰ろう」と言える親は、まぎれもなく子どもを守れる親です。
子どもが“がんばりすぎてしまう生き物”であることを、大人は常に忘れないでいたいですね。
まとめ|“気づいてあげる力”が子どもを守る
熱中症は、決して「特別な子」だけがかかるものではありません。
そして、子ども自身が「おかしい」と感じたときには、すでに症状が進行していることも多いのが現実です。
私自身、Jリーグクラブの現場で、
毎年のように熱中症の予兆や実際の対応にあたってきました。
そのたびに感じるのは、最初の“ちょっとしたサイン”を大人が見逃さないことの大切さです。
この記事では、
- 実際の現場でのエピソード
- 子どもが熱中症になりやすい理由
- 予防の三本柱と、家庭でできる見守り方
を紹介しました。
この知識が、少しでもお子さんの安全に役立つことを願っています。
📌 次回予告|どんなドリンクを選べばいい?
「ちゃんと飲んでるのに、なぜ熱中症になるの?」
その答えの一つが“飲む内容”です。
次回は、ジュニアでも飲みやすい!熱中症対策におすすめのドリンク5選をご紹介します。
→ 記事はこちらから▶︎【ジュニアでも飲みやすい!熱中症対策ドリンク5選】
もしこの内容が役立ったと感じたら、
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あなたのお子さんを守れるのは、今この記事を読んでいる“あなた”です。
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